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翻訳: 伊藤 明子
内容紹介: 封印された歴史に迫る衝撃の書!同性愛ホロコーストの実態が、いま明らかに。
ナチ政権下では数十万人の同性愛者が強制収容所に送られ、所内ヒエラルキーの最下層として、屈辱の果てに虐殺された。今まで語られることのなかった同性愛ホロコーストの実態を、数少ない収容所の生き残りが克明に語る。
- ピンク・トライアングル - Wikipedia
感想: この本が初めて世に出たのが1972年。そして、翻訳され私たちの目に出来るようになったのが1997年。
何と半世紀以上も経って初めて、この残酷極まりない同性愛者へのホロコーストの実態が明らかにされたのだ。しかし、真の実態は決して明らかにはされないだろう。それは、記録が意図的に消され、また彼らを振り返る勇気ある者たちがいないからだ。
信じられるだろうか?同性愛が罪として刑罰の対象になっていたことを。1871年のドイツ刑法175条成立以来、同性愛行為者は刑事犯とされ、例えば最高五年の禁固刑という刑罰を負ったのだ。そして、あの悲惨なホロコーストから解放されても、彼ら善良な同性愛者は、国から何ら補償を得ることも出来なかった。何故なら、彼らは刑事犯であったから。反同性愛法は、何と戦後約25年以上にもわたって、彼らを不条理にも縛り続けてきたのだった。
昨年、イギリスBBC製作の『アウシュビッツ』がNHK総合で放送された。反響は物凄く、数多くの声が寄せられ、年末には再放送も行われた。この中でも触れられていたが、同性愛者も数十万人犠牲となっている。ユダヤ人の600万人に比べたらと言うことなかれ。ひとの命に数は関係ない。みな同じ重さなのだから。
この『ピンク・トライアングルの男たち 1939-1945 ナチ強制収容所を生き残ったあるゲイの記録』には、ナチ強制収容所で、同性愛者がいかに残酷な仕打ちを受けていたか、ユダヤ人と共に絶滅種であると烙印を押され、同じ囚人の中でも、特に過酷な運命を耐え続けなければならなかったかが克明に描かれている。収容所では『死』だけが、彼らをあらゆる苦痛から解放してくれる唯一の方法だった。
著者は何故生き残ることが出来たのか。その理由は、囚人を管理する立場にある者たちとの愛人関係にあった。著者は、生き延びる為にそうしてきた。このことは、収容所内に売春宿が設置されたとき、我が身を売春宿の情人として差し出した他の女性囚人たちと同じである。そうするしかなかった程、収容所内で残虐な行為が行われていたのである。生き延びるためなら、手段を選ぶなど出来なかったのだ。
貴重な記録の書であると、私は思う。『アウシュビッツ』を見て、あのホロコーストとは何だったのかを考えたひとは、きっと大勢いたと思う。しかし、私たちは、同じように、いや、尚過酷に遇され死んでいった仲間のことを忘れてはならない。この本を読み、その悲惨さを表現出来る言葉が、私にはない。もし今後、彼らの記録が再び世に出ることがあるのなら、私はそれを手にしたい。少しでも知ることが、死んでいった仲間への義務でもあると思うからだ。
最後に、著者が母親にカミング・アウトした際の、母親の言葉を挙げておこう。
「可愛い息子よ。これはお前が生きねばならないお前の人生なのよ。生まれつきはどうしようもない、他人には真似できないもの。自分はこうなんだと了解しなくてはならないわ。お前が愛せるのは男性だけだと思うからといって、そのために人非人になったわけじゃない。でも、いかがわしい連中は用心して避けるようにしなさい。簡単に脅迫者の手に陥ることになるから。長くつきあえるような良い友人をもつようにしなさい。 <中途略> 自分がそうであるからといって、絶望する必要はないのよ。」
この母親の言葉は、何より生きる望みを著者に与えたに違いない。そして、私たちをも非常に勇気付けてくれる言葉であると、私は思う。
- ピンク・トライアングルの男たち―ナチ強制収容所を生き残ったあるゲイの記録 1939‐1945(Amazon.co.jp)
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