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草の花

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著者: 福永 武彦

内容紹介: 研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。

彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。

まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。(新潮文庫)

感想: 結核治療のためのサナトリウム。そこで、私は汐見茂思と出会う。当時、結核は不治の病ではあったが、汐見は命の危険にも繋がる肺の摘出手術を受ける決意をし、その術中に亡くなってしまう。降り積もる雪と蒸気の音。ひとつの命が消え、何もかも吸い込まれるような静寂。

ベッドの下に隠された二冊のノートを、私は夢中で読み始める。そこに記されたふたつの愛。ひとつは藤木忍という男性に。もうひとつは、その妹であった。

この作品の中で、同性愛は次のように記されている。先輩と汐見との会話から。

「君が苦しんでいるというのは、一年の藤木のことじゃないのかい?」
僕は頬のほてりを感じた。困ったように、手にした煙草を捨てた。
「君はいま夢中になっているからわからないだろうけれどね、そういう時期は誰でも一度は経験するのだ。つまり麻疹のようなものだろうと僕は思うよ。一体、子供の時代には人間はasexualだ、少し大きくなるとbisexualになる、つまり男女両性的なんだね、そのあとにhomosexualな時期が来る。そうして大人になるんだ。だから君の今の状態は過渡的なもので、いずれは麻疹のように癒ってしまうのさ。」(新潮文庫より)

しかし、汐見はこの言葉に声を少し大きくして言った。これは本当の愛であり、二度と繰り返されることのない愛なのだと。そして、汐見は思いの丈を藤木に告げるが、藤木は汐見の愛を拒絶してしまう。

汐見が藤木に抱く愛は、プラトン的なものであり、肉体的なものへと一線を越えることにまだ身構えが感じられる。この辺りで、私は『モーリス』のクライブを思い出していた。同じように、プラトン的な愛でモーリスを愛するが、そこにギリシャ的な肉体的愛が介入することを拒んでしまう。何かが穢れてしまうと。

拒まれた愛は、それでも平行線を描きながら進んでいった。汐見は、常に自分の中に藤木を抱いていた。変わることのない愛を、汐見は持ち続けたのだった。

やがて、その藤木が病に倒れ亡くなる。

汐見の愛は、妹の千枝子に移っていくが、ここでは双方に愛はあるものの宗教・信念が間に立ちはだかり、ふたりの愛は成就せずに終わってしまう。

汐見という一青年が、自分を模索しながら愛を求め、孤独の中にも愛を求め、そしてその愛を自分の理知のままに貫こうとした。そして、その愛に破れ、今や自分は死ぬ運命となってしまった。汐見の中に残っていた思いとは、どんなものであったろうか。青年ゆえの複雑さと純粋さを、どうしても私は感じてしまう。


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