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著者: ジョン・フォックス
翻訳: 越川 芳明
内容紹介: 十六歳の夏、性の目覚め 少年の若々しい筋肉 潮風の中に彼の匂いがした
水泳部のハンサムボーイと大学生の同性愛体験を鮮烈に、爽やかに描く青春小説の“新しい古典” サリンジャーの伝説を受け継ぐ新世代作家登場！
何がよかったかって、その匂いくらい素敵なものはなかった。それと味だ。ウソじゃない、ぼくはその場で死んでも惜しくなかった。車がやってくる音がして、ぼくらは寄せあっている体をひき離した。車がフラッシュライトを照らしながら通り過ぎた。アルは右手でぼくの左手をとった。ふたりは手と手でゆっくり愛撫しあい、手の筋肉や指にふれたりさした。………（本文より）（新潮社）
感想: 1984年に世に出たこの本との出会いは、もう二十年近くも前になるだろうか。最初は洋書店のゲイ小説のコーナーで原作を買い、満足に読めもしないから、ひたすら刺激的な表紙を眺めていたの覚えている。物語の中では16歳の男子高校生が主人公だけど、それとは明らかに違う大人の男性が水着姿で日光浴をしている白黒の写真だったように記憶している。その後数年経って、今回紹介する翻訳本が出され、ついに出たかと購入し、またその数年後には文庫化されて……原作の方も出版社を変えながら再版されている。それだけ素晴らしい作品だと言えるだろう。
舞台は、1960年代後半。ヴェトナム反戦運動や反人種差別運動・女性解放運動などを背景にしている。
主人公のビリーは高校二年生の16歳。しかも、水泳部員。これだけでもそそる。思春期なら誰しも通ってきたような行為を、ごく普通の男の子としてまずは経験していく様子が描かれている。友達にガールフレンドとの付き合い。ダブルデートしたり、友人の彼女と寝ちゃったり。
けれど、その一方で、それは本当の自分ではないことを、ビリーは自覚している。彼が自分の部屋で自慰に耽るとき、その対象は女の子ではないのだ。例えば、人体解剖図（筋肉がよくわかる）を見ながら、同じ水泳部員の男の子を想像したり、ついには憧れのアルを重ねたり。
アルとは選挙運動の事務所で知り合う。彼は将来政治家を目指している大学二年生。ビリーとはライバル校にあたる高校の、こちらも水泳部出身。アルとの衝撃的な出会いで、ビリーはどんどん思いを募らせていく。それはアルも同じで、ふたりは選挙運動を通じて交流を深めていく（その最中に大統領候補のロバート・ケネディーの暗殺事件が起こる：1968年）。
そして、アルの家で初めて彼とふたりだけで過ごす夜。ふたりは狂おしく、互いを抱きしめ合うのだった。
アルはビリーに夢中。ビリーもアルに首っ丈。だが、順調に進むように見えたふたりの関係は、次第にぎくしゃくしたものになっていく。
今回読みながら、改めておもしろいと思った。なぜならビリーの内面や行動に言動まで、つくづく共感できる自分がいたからだ。
自分は他の男の子とは違うことを自覚して、それを自分にとっては自然のことと受けとめて生きていこうしていくビリーの姿は、とても微笑ましく好感が持てる。
だが、かと言って、アルの気持ちも全否定する気にはなれない。アルは、自分の性癖をビリーのように自然なものとして自分の中では処理できないのだ。そのずれが、ふたりの関係をぎくしゃくしたものにしていく。
自分にとっての真実と他人にとっての真実。どちらに生きるのか。ゲイである自分も、一度は通ってきた道。
大雑把に言えば、ビリーという少年のゲイとしての初恋と、失恋までは行かないけど、どこかほろ苦さを噛んでしまったような青春の一ページとでも言える作品に仕上がっている。
セックスの描写もだけど、ビリーの内面、アルの思い、どれをとっても嘘がないのだ。だから、どちらの気持ちもわかるし、共感できるのだ。
久しぶりに、いい作品を読むことが出来た。是非、10代・20代の子に読んでほしいと思う。ゲイにとっては、必読書じゃないかと思えるほどだ。ただ、この投稿掲載時では、単行本も文庫本も在庫切れとなっており、洋書か古本屋で手に入れるしかないと思われる。残念。
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