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帰らざる夏

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著者: 加賀 乙彦

内容紹介: 省治は、時代の要請や陸軍将校の従兄への憧れなどから100人に1人の難関を突破し陸軍幼年学校へ入学する。日々繰返される過酷な修練に耐え、皇国の不滅を信じ、鉄壁の軍国思想を培うが、敗戦。〈聖戦〉を信じた心は引裂かれ玉音放送を否定、大混乱の只中で〈義〉に殉じ自決。戦時下の特異な青春の苦悩を鮮烈に描いた力作長篇。谷崎潤一郎賞受賞。(講談社文芸文庫)

感想: 従兄の影響を受け幼年学校に入学した省治は、先輩の大清水に気に入られる。だが、その後大清水と同期である源に惹かれ、そして、ふたりは結ばれる。

時が過ぎ源は卒業し幼年学校最上級生となった省治は、かつて源が省治に心を寄せたように一年の大塚四世に思いを寄せる。

だが、その日玉音放送が流れ、戦争は無条件降伏とともに終わる。敗戦を受け入れられない源。それに同調する省治。ふたりは自決を決意。その翌朝、日が昇ると共に果てていく。「きさまと一緒に死ねてうれしいぞ」とは、源が省治に言った言葉である。

毎年終戦記念日を迎えると、また特に今年は戦争の特集が多かったせいか、かねてから心に残っていた映像を何度か目にした。その映像とは、まさしく玉音放送が流れている場面。靖国神社の前にひれ伏しあるいは直立不動の姿勢で、放送を聴いている国民の姿である。

この映像だけは何度見ても心が苦しくなる。ひれ伏す者も直立している者もみな涙し、あるいは必死に涙を堪えている。

この本を読んで、私はようやっと映像の中の彼らの胸に去来するものが見えたような気がした。

戦争が国民全体あるいは国民一人一人の心に齎すものが一体何であるのか。何故にお国の為と死に得たのか。それを己の誇りとし、子息を兵として送り出した家の誉れとなり得たのか。

そして、それが敗戦という結果に終わったとき、当時の国民とりわけこの作品の中心となっている未来の将校たちの心に何が起こったのか。

この作品をゲイ小説の類として紹介していた本を見て購入したのはもう何年も前のことになるが、源と省治の絆もさることながら、終戦当日を知る本としても極めて濃密な作品となっている。

緻密な文章は三島由紀夫の『禁色』を読んだ際にも感じたが、この『帰らざる夏』も深く深く登場人物の心情に入り込める。


容易く言えば、源と省治の関係を同性愛と言えなくもないが、私には単なるホモセクシュアルではないように思える。少年が大人へと成長する過程で生じる一過性のもの。それは異性を思うよりも崇高で厚いものではないだろうか。いい意味でそれがかくも美しく昇華され得たのは、戦争という異常な事態が齎した結果なのかも知れない。

満18歳の源と16歳の省治。眼前に見た玉音放送による同士たちの豹変。事実を受け入れられた者たちとそれができなかったふたり。だからどっちがどうだとは決して言えない。どちらも正しく思えるのだ。それが戦争なのかも知れない。


印象的なシーンがひとつある。源が自決を決意し省治もお供しますと決めたとき、源は省治をひざの上に抱き寄せ口づけする。省治は源の舌が入ってくるのを感じるのである。

残酷だと思った。その口づけは彼らの『生』そのものを意味するのだろう。かくも熱く健全な若者が、その後の未来に手にする諸々のものを棄てて死んでいくのだ。

まだ読んだことのないひとに、是非お薦めしたい作品だ。読みながら、時折呻いてしまうほど読み応えのある作品だった。


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