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内容紹介: 新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。
第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。(文春文庫)
感想: 一読しても、一体何を言いたいのだと、ふと考えてしまうような物語。
「オカマのヒモ」で、ただ何もしないでいい時間を求め、愛されていることを知りながらも、それを避けるように閻魔ちゃんと暮らすぼく。
ぼくは「ホモ狩り」の事件をきっかけに、撮影された過去のビデオを見ていく。そこに映るのは、他愛ないふたりの日常。だが、そこに映る表情や声や背中から、垣間見えるぼくの感情。
閻魔ちゃんと暮らしながら、結婚間近な元彼女と関係を持つぼく。怪しげな輝きを持った元同級生。
ビデオにも、そしてこの物語にも映る「ぼく」の姿は、極めて不安定な印象を受ける。ここという居場所を感じられない。また、確固とした生き方も感じられない。何か勇気を以って何事も踏み出せない青年の姿を見ているようだ。
ふたりの友人の「大統領」が「ホモ狩り」にあったことへの憤りも、最後まで貫き通せない。閻魔ちゃんの愛を知っていながらも、それを知らないふりをする。元同級生の怪しい輝きに惹かれながらも、その世界に踏み込むことが出来なかったぼく。母親の突然の上京に、彼女として閻魔ちゃんを会わせることも出来ず、閻魔ちゃんを徹底して受け入れられていない自分を情けなく思ったり……
そんなぼくが唯一発せられる言葉は、「お腹が減っています」だけ。
まさに青春の一ページが描かれている作品。今に溺れながら、自分の方向を見定めることが出来ずにいる。諸処の出来事にいちいち感情を抱きはするけれど、それがどこか最後まで煮え切らないというか、処理し切れていない。しかし、それでも自己には極めて忠実なのが、青年の姿なのではないだろうか。
ぼくは言ってみる。「お腹が減っています」と。この言葉が唯一、彼が発せられる真実なのだろうと思う。何とも悩ましき青年の姿よと言いたくなるような作品だ。
『最後の息子』という言葉は、閻魔ちゃんの置手紙の中にある。ぼくの母親が突然上京してきて、彼女に会わせなさいと言うのだが、結局、閻魔ちゃんは会わずに家を飛び出す。ぼくが家に戻ると、そこには置手紙が。
母親というものは、可愛いお嫁さんをもらって可愛い子供を……と望むもの。自分には「ぼく」を最後の息子にする権利はない、と。
そんな最後の息子が過ごした閻魔ちゃんとの日々を、この物語はビデオ日記を通して教えてくれるのである。
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