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天国の音色

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原題: The Sound of Heaven
著者: ジョセフ オルセン
翻訳: 浅川 寿子

内容紹介: 愛した人はエイズだった。ローマ-ニューヨークを舞台に現実と愛の葛藤を描く長編小説。

真実の愛を求めて…『本書はエイズという大きなテーマを扱いながら、決してそれを大上段にふりかざしてはいない。ローマで知り合った若いカップルの愛の軌跡をたどりながら、同性愛、親子の愛、兄弟愛、友情といったさまざまな愛の形と愛する人の死を繊細なタッチで描き出した、これは愛と死の書である』-「訳者あとがき」より(徳間書店)

感想: 300ページ以上に及ぶ長編。けれども、現実の話は極めて少ない。現実のストーリーの間間に、回想シーンがやたらと入りまくるからだ。それが、結構読んでていらいらする。ジェームズとダイアナの出会いや、交際中のすったもんだ。そして、不本意な別れ。ダイアナはその後ローリーと恋に落ちふたりの関係を大切に思うが、ジェームズほどの結びつきを感じなかったりもする。一方、ジェームズも新しく彼女を作るが、エイズだと知ると、彼女は自分が陰性であるにもかかわらずジェームズのもとを離れてしまう。残されたジェームズは、ダイアナを心の拠り所とするのだが…

恋愛模様に加えて、ジェームズやダイアナそれぞれの親子関係も思い切り描かれている。ジェームズの父親は酒に溺れると暴力を振るうのだが、正気に戻ると、異常な愛をジェームズに注ぐ。まだ幼い彼を好きなだけぶっておきながら、正気に戻るとしきりに謝りお風呂に入れて体を洗ってやるのだ。ジェームズは、そのとき父親の愛情を独占しているような気になる。方や、ダイアナは兄を不可解な死で亡くす。自殺なのか事故死なのか、兄は麻薬の常習者に落ちていた。両親の期待を背負った彼の死は、ダイアナがローリーを説き伏せてまで元彼のジェームズの看護に向かう姿勢に影響を与えている。

この本の原題は『The Sound of Heaven』となっている。酔って自分を殴った父親が正気に戻り、償いをしようとお風呂の準備を始めているときに、ジェームズが耳にする音だ。一切の恐怖を堪え忍んだ後にやってくる心地よい響き。

このタイトルがこの本の主題を成すならば、『天国の音色』とは、エイズに対する情報や治療などまだまだ今日とは程遠かった時代に(この本は1992年出版・翻訳は1994年、舞台は1980年代)、エイズに感染し、ただひたすら死を待つだけの者たちが、その苦難の後に耳にするであろう感じるであろう安らぎを言うのではないだろうか。それは、希望でもあるだろう。この堪え難い苦痛を、死をもってしか終えることが出来ないという絶望感。せめてその先には、この苦痛を、この人生を安らぎと喜びに変えるものがあってほしいと。

翻訳本には『純愛がエイズを超えた記』というサブタイトルが付いている。だが、これは不適切に思えてならない。行き過ぎた表現ではないかと。

そして、このサブタイトルから、この本をエイズの闘病記のように思い込んで読むと、とんでもなく損をした気になる。

ジェームズが自分はエイズに感染(バイの彼はゲイから感染)していると知り、元彼女のダイアナに電話で話したいことがあるからと、一週間後に会う約束をする。だが、会うまでにこの本の半分は終わっている。その半分以上を占めているのが、回想シーンだ。そして、その後も折に触れ回想シーンが何度も出てくる。ジェームズが、ダイアナと彼の母親のハンナと病室や自宅で看病されながら生きていくシーンは極めて少ない。

だが、この作品はエイズ感染・発病・闘病・死という傾向にありがちなこの種の作品には、一点だけ違った視点を入れてきた。

それは、ジェームズが自分の意識がすべて失われてしまわないうちに、自ら命を絶つという点だ。ダイアナを通じて、睡眠薬を入手する。ダイアナは、ジェームズの願いを聞き入れたのだった。この『死の選択』は『尊厳死』ということを思わせた。なるほど、現実を紐解いてみれば、確かに自分がエイズに罹ったことを悲観して自殺してしまうものもいる。だが、それでも生きたくて、奇跡のような望みを抱いて闘病生活に入っていく者もいる。ジェームズの『死の選択』は、感染時ではなく、この闘病生活に向かう中で、またその中で、堅く決められていったものだった。サブタイトルに惹かれたがために、何ともあっさりした結末なのだが、さもありなんという感想も持った。


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