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鮎と蜉蝣の時

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著者: 岩村 蓬

内容紹介: 少年の幼き体験、秘められた至純の愛、時を越え、ひとつの句に凝縮される。十七文字の世界が初めて具現化された小説。果たして小説は俳句の無限の世界を描き切れたか…(学芸書林)

時は、満州事変の頃。最上俊彦と伊賀麻男は、同じ陸上競技部の先輩後輩だった。最上が伊賀の走りを見て、部への勧誘をしたのだった。だが、その最上の心の内には、伊賀に寄せる密かな思いがあった。

その思いを、最上は自分を兄貴として、伊賀を特別な『弟』として育んでいく。そして、周囲の目を逃れるために、特別の練習と称して、伊賀を多摩川の河原へと誘い、ふたりだけの時を過ごすのだった。

やがて、最上は四高(旧制)に進学することが決まり、後を託された伊賀は部活に精を出すのだが、肺結核に罹ってしまう。死を覚悟しながら、寝込む毎日。そこに、最上がお見舞いにやってくる。そこで、ふたりは体を重ねてしまうのだった。

やがて、アメリカとの戦争も始まり、国全部が戦争一色に染まる。夏休みに帰省した最上が、伊賀を八王子の自宅へと招く。久しぶりの再会に喜ぶ伊賀だったが、そこで見たものは、最上の彼女の写真だった。伊賀は衝撃を受けるが、最上の行く末を見守ろうと決意する。

戦争が終わり、かつての部員である島との再会を果たした伊賀。その部員から、他の部員の消息を聞くのだった。そして、最上が特攻隊として死んだことを知る。だが、最上はその部員に伊賀への言葉を託していた。

感想: この本はいくつかの短編からなっている。その一作目にこの『鮎と蜉蝣の時』が載っている。ページをめくると次のような句が出てくる。

蜉蝣も鮎も美童も薄暮かな  蓬

岩村蓬氏は、大正11年生まれの俳人である。2000年の11月に亡くなっている。この本は、その翌年に出版されていた。私はこの本を、二丁目のルミエールで購入した。表紙の絵に一種のノスタルジーを感じたからだ。

戦時中という時代。男同士の秘められた想い。その想いは遂げられることなく、最上は偽りを告げたまま死に、伊賀は「すべては済んでしまったこと」だとその想いに終止符を打ったのだった。伊賀が見た写真、いずれは結婚する相手と信じ込んだその人は、最上の姉だった。

出撃の前、最上は島に言葉を託した。

『この世に唯一人の弟として伊賀を愛し、それゆえに彼から自分を遠ざけねばならなかった』と。

更に、八王子の最上の実家を訪れた際に、当の最上の姉志津江が言う。

『伊賀様の一生の心の重荷と進路の障害になるような罪を犯してしまって深く後悔している』と。……『その罪をさらに重ねないために伊賀様に恥ずべきウソをついてしまった』と。……『とっさの思いつきでついてしまったウソと本音との矛盾の板挟みになって苦しんでいる。真実を告げてお詫びするつもりだ』と。

だが、真実は、島の口から伊賀に伝えられたのだった。

彼らの愛は、一過性だったのだろうか…ふと、そんなことを思った。だが、たとえそうであったとしても、あの時代に密かに思いを抱き続け、ふたり交わし合った時が存在した。ひたすら相手のことを思い、ためにそれが、悲劇に終わる結果になったとしても、それがすべては愛から生じたものであったということ。これが、美しく切なく、ひとの心を打つのではないだろうか。

蜉蝣も鮎も美童も薄暮かな

薄暮は、実に儚い。儚いながらも、ひとの目に映る景色は、ひとの心を捉えて止まない。やがて消え行くものなのに、それでも赤々とすべてを染めていく。心にいつまでも余韻を残して。


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